← SURPLUS / 記事一覧へ GENERATION RENT ・ 見えない豊かさの経済学

自分の将来には63%が楽観的なのに、親の世代とは比べたくない。

英国の若者調査では、63%が「自分自身の将来」には楽観的だと答える。だが「親の世代と比べてどうか」という問いになると、答えは反転する——ロンドンの住宅価格は1997年から2025年で531%上昇したのに、賃金はそれに見合って伸びなかった。「自分の未来」と「世代としての比較」は、同じ人の中でも別の答えを持っている。

この記事で手に入るもの

住宅価格が年収の7.6倍という英国全体の水準、ロンドンでの531%という突出した価格上昇、24歳で実家暮らしの割合が36%から49%へ拡大したという「Generation Rent」の実態、そして平均53,000ポンドという学生ローン残高までを確認する。

01 — 問い

「自分の未来」と「世代の比較」で、答えが分裂する

2025年の英国若者調査では、63%が自分自身の将来に楽観的、悲観的と答えたのはわずか23%だった。90_usaのDeloitteデータで見た「個人は楽観・社会は悲観」というねじれと同じ構造が、ここにも表れている。だが2026年の別の調査では、若者が「自分の人生は親の世代より悪くなる」と考える傾向が強まっており、特にロンドンから離れるほどこの悲観は強くなるという地域差も報告されている。


02 — 住宅という重り

ロンドンの住宅価格は、28年で531%上昇した

2025年時点で、英国の住宅価格の中央値は年収中央値の7.6倍。2015年から2025年にかけて、英国の平均家賃は15〜20%上昇した一方、平均賃金の伸びは約10%にとどまった。特にロンドンでは、1997年から2025年にかけて住宅価格が531%上昇したのに対し、賃金の伸びはそれに見合っていない。

この重さは、住居形態の違いにも表れる。民間賃貸で暮らす人は所得の50%超を家賃に充てているのに対し、持ち家層の住宅ローン負担は平均で所得の約19%にとどまる——「借りている」か「持っている」かで、負担の重さが2倍以上違う。2014年に24歳で実家暮らしをしていた人は36%だったが、2024年には49%まで上昇した。


03 — 学生ローンという追加の重り

平均53,000ポンドの学生ローンを抱えて、住宅市場に挑む

住宅費用に加え、多くの若者は在学中に積み上がった学生ローンを抱えて社会に出る。2025年のデータでは、卒業生の平均残高は約53,000ポンド。英国全体の学生ローン残高は約2,670億ポンド、260万人の借り手が5万ポンド超の残高を抱えている。住宅市場への参入コストと、教育の投資コストが同時に重なる構造は、90_usaで見た米国の学生ローン問題と共通する。

「自分の未来」への楽観は、個人の努力や希望の表れだ。だが「親の世代との比較」という悲観は、住宅価格・賃金・学生ローンという、個人の努力だけでは動かせない構造の反映でもある。


04 — 相続という分岐点

28歳での持ち家率は、たった3世代で47%から27%へ落ちた

Resolution Foundationの「世代間監査(Intergenerational Audit)」によれば、1961〜65年生まれの世代は28歳までに47%が持ち家を得ていたが、その3世代後にあたる世代では、同じ28歳時点での持ち家率はわずか27%——20ポイントの差がある。実質ベースで見た20代と60代の資産格差は、2006〜08年の約32万ポンドから2020〜22年には50万ポンド超まで拡大し、58%増となった。

01

相続が持ち家世帯に集中する

2018〜20年の相続のうち49%が親からのもので、10万ポンドを超える高額な相続に限れば70%以上を占める。持ち家世帯の92%が資産を子に継承する計画を持つ一方、賃貸世帯でこの計画を持つのはわずか45%にとどまる。

02

努力より出自が資産形成を左右する

持ち家か賃貸かという親世代の住宅事情が、そのまま子世代の将来の資産継承の有無を決める構造になっている。「自分の未来」への楽観だけでは、この世代を超えた分岐を覆せない。


05 — 結論

2つの問いは、別々の答えを持っていい

「あなたの将来は明るいか」と「あなたの世代は親の世代より良い暮らしができるか」——この2つの問いに同じ人が違う答えを出すのは、矛盾ではない。前者は個人のコントロール感を、後者は構造的な条件を測っている。87_genzhopeで見た「個人と社会で分裂する予測」という構造は、英国でも同じ形で観測される。政策の当否を論じることは本記事の範囲を超えるため、ここでは統計が示す構造の紹介に徹した。

「楽観的な若者」と「悲観的な若者」は、同じ調査の同じ回答者の中に同時に存在しうる。問いの立て方が変われば、答えも変わる。


06 — 出典

参考文献

本記事の要約・引用元。住宅市場調査・世論調査・政府統計を組み合わせている。

01
2025年UK Youth Poll若者の63%が自身の将来に楽観的・23%が悲観的という調査結果の出典。
02
John Smith Centre(2026)親世代との比較で若者の悲観が強まっているという調査、ロンドンから離れるほど悲観が強いという地域差の出典。
03
英国国家統計局等の住宅市場統計(2025年)住宅価格の年収倍率7.6倍、2015〜2025年の家賃上昇率15〜20%(賃金上昇約10%)、ロンドンの住宅価格531%上昇(1997〜2025年)、民間賃貸の家賃負担率50%超対持ち家層19%という統計の出典。
04
House of Commons Library等の若者住宅統計24歳の実家暮らし率が2014年36%→2024年49%へ上昇したという統計の出典。
05
Resolution Foundation(2024)An Intergenerational Audit for the UK: 2024. 28歳時点の持ち家率(1961〜65年生まれ47%→3世代後27%)、20代・60代の実質資産格差(2006〜08年約32万ポンド→2020〜22年50万ポンド超、58%増)、相続の集中(2018〜20年、親からの相続49%・10万ポンド超相続の70%以上、持ち家世帯の資産継承計画92%対賃貸世帯45%)という統計の出典。
05
英国学生ローン統計(2025年)卒業生平均残高約53,000ポンド、全国残高約2,670億ポンド・260万人が5万ポンド超という統計の出典。
SURPLUS BOOKS VOL.1

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