「アメリカン・ドリーム」は長らく比喩として語られてきたが、経済学者ラジ・チェティらは、これを実際に測定可能な数字に変換した。1940年生まれの子どもの90%は親より豊かになれたが、1980年代生まれでは、その確率はコイントスとほぼ同じ50%まで落ちた。この記事では、この測定と、それを取り巻く学生ローン・住宅・雇用の最新データを追う。
Chetty, Grusky, Hell, Hendren, Manduca & Narang(2017, Science)による絶対的経済移動率の測定、1.87兆ドルに達した学生ローン総額、所得の47.7%を占める住宅費、そして2026年のGallup調査が明らかにした「米国史上初めて、若年層が高齢層より仕事に悲観的になった」という逆転現象までを追う。
「努力すれば、親の世代より豊かになれる」——この感覚は長らく、米国という国のアイデンティティの一部として語られてきた。経済学者ラジ・チェティらの研究チームは、この感覚を「絶対的経済移動率(absolute income mobility)」という指標に変換した。30歳時点での本人の世帯所得が、30歳時点での親の世帯所得を上回っている人の割合、という定義だ。
Chetty et al.(2017, Science)によれば、1940年生まれの世代では、この割合は約90%だった。ほとんどの人が、親より豊かになれた。だが1980年代生まれの世代では、この割合は約50%まで下落した——コインを投げるのとほぼ同じ確率だ。この記事では、この数字の背景にある要因と、より最近の雇用データが示す新しい兆候を確認する。
チェティらの分析で興味深いのは、この低下の主な原因が「経済成長そのものの鈍化」ではなかった点だ。
研究チームのシミュレーションによれば、絶対的経済移動率の低下のうち、経済成長率の鈍化で説明できるのは約30%にとどまり、残りの約70%は、経済成長の果実が上位所得層に偏って分配されるようになったことで説明される。つまり、1940年生まれの世代と同じ「均等な分配」のまま今の経済成長率を維持できていたなら、低下の7割以上は防げていた計算になる。パイの大きさそのものより、パイの切り分け方の変化が、世代間の期待を大きく変えた。
この構造的な変化に加え、若い世代が実際に直面している負担も増している。
2026年3月時点で、米国の学生ローン残高は連邦・民間合わせて約1兆8,660億ドルに達した。借り手は4,280万人、平均残高は借り手1人あたり約4万3,570ドル(中央値は約2万4,109ドル)。大学院ローンを抱える一部の借り手が平均値を押し上げている。
アトランタ連銀の住宅取得可能性指数によれば、2025年半ば時点で、中央値の価格の住宅を購入する場合、世帯所得の47.7%が住宅費用に充てられる計算になる。この水準は過去2年間、40〜50%という厳しい範囲で高止まりしている。初めて住宅を購入する人の年齢中央値も、統計の取り方により35〜40歳まで上昇しており、これまでで最も高い水準にある。
Gallup(2026)の最新調査は、この構造がさらに新しい局面に入ったことを示している。
2025年、米国で「今、地元で仕事を見つけるのに良い時期だ」と回答した15〜34歳は43%にとどまり、55歳以上の64%を21ポイントも下回った。他の先進国の大半では、若年層の方が高齢層より仕事の見通しに楽観的な傾向が続いている。米国でこれほどの世代間の逆転が観測されたのは、コロナ禍の2020年を除けば統計史上初めてに近い。最も悲観が強いのは、高学歴でまだフルタイムの職に就いていない若年層——つまり、労働市場に最も積極的に入ろうとしている層だった。
「若さ=楽観」という前提そのものが崩れつつある国が、少なくとも1つある。それが、長らく若者の楽観の象徴とされてきた米国だという点に、この変化の重さがある。
絶対的経済移動率の低下、学生ローンの重さ、住宅取得の遠さ、そして雇用への新しい悲観——これらは別々の統計だが、同じ1つの物語の異なる断面だ。
87_genzhopeで見たように、米国はPewの2022年調査で「子は親より貧しくなる」と考える人が多数派の国の一つだった。だがチェティらの研究が示すのは、これが単なる悲観的な「気分」ではなく、実際に測定可能な形で進行してきた変化だという点だ。88_korea・89_chinaとは異なる制度的背景を持つ米国でも、「次の世代が前の世代を上回る」という前提そのものが、統計の上で崩れつつある。政策の当否を論じることは本記事の範囲を超えるため、ここでは測定された事実の紹介に徹した。
アメリカン・ドリームは、もはや比喩ではなく、追跡可能な統計になっていた。そしてその統計は、半世紀前とは違う数字を示している。
本記事の要約・引用元。学術研究と最新の統計調査を組み合わせている。
連載の主要記事を1冊に再構成し、書き下ろしを加えたKindle本です。数字では測りにくい豊かさを、所得・時間・関係・自由の視点から読み直します。
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