日本のZ世代が語る将来への絶望は、SNS上ではしばしば「世界共通の宿命」として語られる。だが国際比較データを並べると、悲観は先進国・高齢化国に強く偏り、若年人口の多い新興国ではむしろ楽観が優勢だとわかる。そして日本は、主観(意識調査)と客観(世代会計)の両方で、世界の中でも突出して重いポジションにいる。
内閣府(2013)の6カ国比較調査、Pew Research Centerによる2022年・2024年の国際世論調査、内閣府が試算した世代会計(1999年基準)の生涯純負担、そしてTwenge & Haidt(2021)のPISA37カ国データを軸に、「Z世代の絶望」がどこまで世界共通で、どこから日本固有なのかを地図として描き直す。
「生まれた瞬間から数千万円の借金を背負っている」——SNS上で世代間格差を語るとき、しばしばこの種の表現が使われる。少子高齢化・年金財政の逼迫という日本特有の構造が念頭に置かれていることが多い。
だがこの絶望感は、本当に日本だけのものなのか、それとも世界のZ世代に共通する感覚なのか。内閣府が2013年に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』は、日本・米国・英国・スウェーデン・フランス・ドイツ・韓国の7カ国(比較の主軸は6カ国)の13〜29歳を対象に「将来に明るい希望を持っているか」を尋ねている。結果は、日本が12.2%で最下位。米国とスウェーデンは過半数が「希望を持っている」と回答した。職場への満足度・自分自身への満足度が最も低く、憂鬱だと感じる割合が最も高いのも、いずれも日本だった。この記事では、この主観的な悲観が世界的にどう広がっているのか、そして日本が置かれた位置を、複数の国際比較データで確認する。
より広い国際比較データを見ると、「将来への悲観」は世界均一に広がっているわけではないことがわかる。
Pew Research Centerが2022年に19カ国・約2万1千人を対象に行った調査では、「自分の子どもの世代は、自分より経済的に貧しくなる」と答えた人が、調査対象国中で日本は77%に達した。19カ国のうち過半数が「豊かになる」と楽観的だったのはシンガポール(56%)だけだった。ところが2024年に対象国を41カ国・4万人超まで広げた追加調査では、様相が一変する。バングラデシュ・インド・インドネシア・フィリピンなど、若年人口比率が高く経済成長率も高い国々では、いずれも7割以上が「子の世代の方が豊かになる」と楽観的に回答した。世界全体の中央値で見ると、悲観派は57%——日本の77%より20ポイントも低い。
日本・韓国・米国・カナダ・欧州の大半の国で悲観派が優勢。共通するのは、高齢化率が高く、経済成長率が鈍化した成熟経済であるという点だ。
バングラデシュ・インド・インドネシア・フィリピンは、いずれも人口の年齢中央値が20代と若く、経済成長率も相対的に高い。「次の世代の方が豊か」という感覚は、右肩上がりの成長を前提にした素朴な期待として自然に成立する。
「Z世代は世界的に絶望している」という一般化は不正確だ。悲観は世代そのものの属性ではなく、その国の人口構造・成長率という制度的な変数と強く相関している。
日本の悲観が単なる気分の問題でないことは、内閣府自身が試算した「世代会計」からも裏付けられる。
世代会計とは、生涯を通じて税金・社会保険料として支払う「負担」から、年金・医療などで受け取る「受益」を差し引いた「生涯純受益額」を、生まれ年別のコホートで比較する手法だ(Auerbach, Kotlikoff & Leibfritz, 1999が体系化し、23カ国で採用が広がった)。内閣府が1999年時点の価格・割引現在価値で試算した数値(平成13年度年次経済財政報告)によれば、60歳以上(1939年以前生まれ)は生涯で5,700万円の受益超過である一方、20歳代(1970〜79年生まれ)は1,300万円の負担超過、そして将来世代(1980年以降生まれ)は4,200万円の負担超過——20歳代世代の3倍を超える負担になると試算されている。最も重い世代と最も軽い世代の差は、7,000万円を超える。
SNSでよく語られる「生まれた瞬間にマイナス数千万円」という感覚は、誇張ではなかった。内閣府自身の試算が、桁としてはその主張を裏づけている。
悲観の「経済的な理由」は国によって温度差が大きい一方、もう一つの要因——スマートフォンとSNSの普及——は、驚くほど世界同時多発的に進行していた。
Twenge, Haidt, Blake, McAllister, Lemon & Le Roy(2021)は、OECDのPISA(国際学習到達度調査)に含まれる「学校での孤独感」の設問(15〜16歳、37カ国、参加者104万人超)を2000年から2018年まで追跡した。結果、2012年から2018年のあいだに37カ国中36カ国で学校での孤独感が上昇し、世界全体で見ると2018年は2012年のほぼ2倍の生徒が高い孤独感を報告した。統計モデルでは、スマートフォンの普及率・インターネット利用率が高い国ほど孤独感が高いという関連が確認された一方、意外なことに失業率が高い国ほど孤独感の上昇は小さいという逆相関も見られた——経済的な困窮そのものよりも、常時接続という生活様式の変化の方が、孤独感を強く動かしている可能性を示唆する結果だ。
経済的な悲観は国の人口構造・成長率に応じてばらつくが、デジタル起因の孤独感は先進国・新興国を問わず広がっている。この2つを1つの「Z世代の絶望」として混同すると、処方箋を取り違える。
興味深いのは、同じ調査の中でも、個人の将来予測と社会全体への予測が食い違うことだ。
DeloitteのGlobal Gen Z and Millennial Survey(2026年、44カ国・Z世代とミレニアル世代あわせて22,500人超)では、Z世代の55%が「経済的な事情で結婚・出産・起業・進学といった人生の重要な決断を先延ばしにしている」と回答した一方、53%は「来年、自分自身の家計は改善すると思う」とも答えている。社会や次世代全体については悲観的でも、自分個人の1年後については楽観的——このねじれは、Pewの「子の世代」への悲観とDeloitteの「自分自身」への楽観を重ねると、より鮮明になる。
韓国では2011年、恋愛・結婚・出産を諦める「サムポ(三放)世代」という言葉が生まれ、その後就職・住宅購入・人間関係・希望まで加わり「Nポ世代」へ拡張した(韓国の若年成人の約4割が該当するという推計もある)。中国の「躺平(タンピン)=寝そべり」、日本の「悟り世代」も、2021年のCNN報道が指摘するように、東アジアの高齢化・競争社会に共通する疲弊の表現として並べて語られることが多い。ただしこれらはジャーナリズム的な観察であり、Pewや内閣府の調査のような厳密な統計的比較ではない点には注意が必要だ。
Gallup(2026)によれば、2025年の米国で「今、地元で仕事を見つけるのに良い時期だ」と答えた15〜34歳は43%にとどまり、55歳以上の64%を21ポイントも下回った。他の先進国の大半では若年層の方が高齢層より楽観的な水準を保っており、これほどの世代間の逆転は米国では観測史上初めてに近い(コロナ禍の2020年を除く)。若さと楽観がほぼ同義語だった国でさえ、世代間の逆転が起き始めている。
ここまでのデータを重ねると、「Z世代は世界的に絶望している」という単純な図式は成り立たない。
悲観は世代そのものの特性ではなく、その国が高齢化した成熟経済か、若く成長中の新興国かという構造に強く規定されている。一方でスマートフォン・SNSが引き起こす孤独感の上昇は、経済状況とは独立に、ほぼ世界同時多発的に進行している。日本が特殊なのは、この2つの悲観要因——構造的な世代間格差(内閣府の世代会計が示す7,000万円超の格差)と、デジタル由来の孤独感——が同時に重なっている点だ。86_impostertaxで見た「測り方によって数字が9%から82%まで動く」という構造と同じく、この悲観も「どの指標で、どの国と比べるか」によって印象が大きく変わる。年金・社会保障制度の設計は本記事の範囲を超える専門的な政策論争であり、ここでは価値判断を避け、実証データの紹介に徹した。ただし少なくとも、「世界中のZ世代が同じように絶望している」という前提そのものは、データの上では支持されない。
絶望を測るには、少なくとも2つの物差しが要る。「今の生活への満足」と「次の世代への見通し」——この2つは、しばしば別々の方向を指している。
本記事の要約・引用元。政府統計・国際世論調査・学術研究を組み合わせている。
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