香港は世界で最も住宅価格が高い都市であり続けている。中央値の住宅価格は年収の23.3倍——12年連続で世界最悪の水準だ。同じ時期、若く教育水準の高い層を中心に、記録的な規模の人口流出が続いている。この記事では、「残る」か「出る」かという選択そのものが、若い世代にとっての物差しになっている都市を見る。
Demographia等の住宅価格調査による年収倍率23.3倍という水準、国家安全維持法(NSL)施行後5年間で人口の約7%が流出したという規模、そして香港中文大学の調査が示す若年層の流出意向までを確認する。
香港中文大学香港アジア太平洋研究所が2016年に発表した調査では、30歳以下の香港住民の57%が「機会があれば移民したい」と回答した。2018年12月の調査でも、18〜30歳の51%が同じように答えている。いずれも2020年の国家安全維持法(NSL)施行より前の調査で、「出る」という選択肢は、NSL以前から若い世代の頭の中にあった。大学卒業者に限れば、35歳未満の約4人に1人が海外での就労を計画しているという調査結果もある。移住先として多いのは英国・オーストラリア・ニュージーランド・欧州・米国だ。
この記事では、この流出意向を支える2つの構造——世界最悪水準の住宅価格と、国家安全維持法(NSL)施行後の社会的変化——を確認する。
香港の住宅価格の年収倍率は23.3倍——調査対象都市の中で最も高く、12年連続でこの座を維持している。2004年から2021年にかけて、実質住宅価格指数は239%上昇した一方、実質賃金指数の上昇はわずか7.1%にとどまった。
この重さは、都市の底辺でより直接的な形をとる。2023年時点で、約22万人が「劏房(トウファン)」と呼ばれる分割された狭小住宅に暮らしており、中には50平方フィート(約4.6平方メートル)ほどの広さの部屋もある。こうした住戸に暮らす世帯の月収の中央値は1万5,310香港ドルで、家賃が収入の31.8〜32.3%を占める。公共住宅の入居待機期間は平均5年を超える。
2020年の国家安全維持法(NSL)施行以降、香港からはおよそ50万人以上が流出したと推計されている——総人口のおよそ7%にあたる規模だ。この流出は若年層・高学歴層・国際的に移動可能な層・専門資格保有者に集中して起きている。労働力人口は2020年から2022年のあいだに約14万人縮小した。
英国のBN(O)ビザに申請した香港住民14万2千人のうち、3万8,600人は18歳未満——親世代だけでなく、次の世代ごと移住する動きが含まれている。申請者の37.3%が学士号、32.2%が修士号を保有しており、流出層の教育水準の高さがうかがえる。
住宅を持てない重さと、社会の先行きへの不確実性——この2つが重なったとき、「残るか出るか」という選択そのものが、若い世代の物差しになる。
Wong, Chen, Suen et al.(2023)は、代表性のあるサンプルを用いて、2019年から2022年にかけて香港の若者の精神疾患の有病率を継続的に追跡した。大うつ病エピソードの12カ月有病率は、2019年5月〜2020年6月の第1期で13.2%だったが、2020年7月〜12月の第2期(社会的動揺とコロナ禍初期が重なった時期)には18.1%まで上昇した。その後、2021年前半には14.0%まで低下したものの、2021年後半〜2022年前半の第4期でも13.2%と、依然として高い水準にとどまっている。
世論調査が示す「出て行きたい」という意向と、疫学調査が示す有病率の上昇は、別々のデータでありながら、同じ時期に同じ方向を指している。
香港の物語で見落とされがちなのは、統計に表れるのは「実際に出て行った人」だけだという点だ。2016年の57%という流出意向の数字が示すのは、まだ現地に残りながらも、心理的には既に「ここではないどこか」を選択肢として持っている、より広い層の存在だ。88_korea・89_chinaと同じ東アジアの中でも、香港は「出る」という選択肢そのものが現実的に開かれているという点で、独自の位置にある。政策の当否を論じることは本記事の範囲を超えるため、ここでは統計が示す構造の紹介に徹した。
住み続けるという選択も、離れるという選択も、どちらもコストを伴う。香港の若い世代は、そのどちらかを選ばざるをえない状況に置かれている。
本記事の要約・引用元。住宅市場調査・政府統計・大学調査を組み合わせている。
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