← SURPLUS / 記事一覧へ BRAZIL & THE INFORMALITY GAP ・ 見えない豊かさの経済学

若年失業率は改善したが、労働人口の38.4%はインフォーマル雇用のままだった。

ブラジルの若年失業率は2024年の15.67%から2025年には13.98%まで下がった。数字だけを見れば改善だ。だが同じ国の労働力の38.4%は、労働契約のない「インフォーマル(非正規)」な働き方を続けている。失業率という物差しは、こうした働き方の質までは映さない。

この記事で手に入るもの

若年失業率の推移、地域によって19.3%から9.1%まで開く格差、労働力の4割近くを占めるインフォーマル雇用の実態、そして若い世代の暴力による死者数という、GDPに現れないもう一つの喪失までを確認する。

01 — 問い

失業率の改善は、雇用の質の改善を意味しない

ブラジル地理統計院(IBGE)の統計によれば、若年失業率は2024年の15.67%から2025年には13.98%まで低下した。地域差も大きく、2024年第2四半期には北東部で18〜24歳の失業率が19.3%に達した一方、南部では9.1%にとどまっている。

だが「失業していない」ことは、「安定した仕事に就いている」ことと同義ではない。ブラジルの労働力人口の38.4%(2024年)は、労働契約のないインフォーマルな働き方をしている。ラテンアメリカ地域全体で見ると、15〜24歳の若年労働者の63%がインフォーマル雇用にあるという推計もある。


02 — インフォーマル経済という現実

労働契約なし、社会保障なし、それでも「就業者」に数えられる

インフォーマル雇用は、失業率の統計上は「就業」として扱われる。だが労働契約・年金拠出・医療保険といった保護を欠くことが多く、収入の不安定さや老後の備えの薄さにつながりやすい。ブラジルではこの比率が2022年以降緩やかに低下しており、雇用の質はIBGEの記録開始以来最も高い水準にあるとされるが、依然として労働力の4割近くがこの働き方に置かれている現実に変わりはない。


03 — 統計に現れないもう一つの喪失

2014年から2024年の10年間で、30万人以上の若者が命を落とした

雇用統計とは別の角度から、ブラジルの若い世代が置かれた現実を示すデータがある。ブラジルの暴力研究機関の集計によれば、2014年から2024年の10年間で、15〜29歳の若者およそ30万1,825人が暴力によって命を落とした。2024年単年では、若年層の死者数は全殺人被害者の46.5%を占め、この年齢層の死亡率は人口10万人あたり42.2人——全年齢平均の2倍を超える水準だった。犯罪組織間の抗争が集中する北東部の都市部で、被害は特に大きいと報告されている。

失業率にも、GDPにも、この喪失は数字として現れない。雇用統計が測っているのは、生きて働いている人の状況だけだ。


04 — 「ネン・ネン」という第三のカテゴリー

約1,100万人が、働いても学んでもいなかった

失業者・インフォーマル就業者のどちらにも当てはまらない、第三のカテゴリーもある。ブラジル地理統計院(IBGE)の調査によれば、2022年時点で15〜29歳の22.3%——およそ1,100万人が「ネン・ネン(nem-nem、『どちらもない』の意)」、すなわち就学も就労もしていない状態にあった。より若い15〜24歳の層に絞ると、この割合は前年の約23%からわずかに低下したものの、依然としておよそ5人に1人が該当する。

この層は、黒人・女性・低所得世帯の出身者に偏って集中していると報告されている。失業率にもインフォーマル雇用率にも表れない、機会そのものへのアクセス格差が、ここに集約されている。


05 — 結論

1つの統計の改善は、生活全体の改善を保証しない

失業率という単一の指標は、雇用の「有無」は捉えられても、その雇用の「質」や、雇用の外側にある命の危険までは捉えられない。102_nigeriaで見た「定義変更による数字の改善」とは異なる形で、ブラジルの物語は「1つの統計だけでは全体像がわからない」という、この連載全体を貫く教訓を示している。政策の当否を論じることは本記事の範囲を超えるため、ここでは統計が示す構造の紹介に徹した。

失業率が下がったというニュースの裏側に、何が数えられていないかを確認する必要がある。雇用の質、そして命の重さは、失業率という1つの数字には収まらない。


06 — 出典

参考文献

本記事の要約・引用元。政府統計・地域機関の暴力統計を組み合わせている。

01
ブラジル地理統計院(IBGE)(2024〜2025年)若年失業率(2024年15.67%→2025年13.98%)、地域別格差(北東部19.3%・南部9.1%、2024年第2四半期)という統計の出典。
02
IBGE・世界銀行の集計(2023〜2024年)インフォーマル雇用率38.4%(2024年)、ラテンアメリカ地域の若年インフォーマル雇用率63%という統計の出典。
03
ブラジル暴力研究機関(Atlas da Violência等)の集計(2024〜2026年発表)2014〜2024年の若年層(15〜29歳)暴力による死者数約30万1,825人、2024年の若年層死亡率(人口10万人あたり42.2人、全殺人被害者の46.5%)という統計の出典。
04
ブラジル地理統計院(IBGE)(2023年発表)2022年時点で15〜29歳の22.3%(約1,100万人)が就学も就労もしていない「ネン・ネン」状態、黒人・女性・低所得世帯出身者への偏りという統計の出典。
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