← SURPLUS / 記事一覧へ NIGERIA & THE DEFINITION THAT MOVED THE NUMBER ・ 見えない豊かさの経済学

失業率は2年で33.3%から4.1%になった。景気は、何も変わっていなかった。

2020年第4四半期に33.3%だったナイジェリアの失業率は、2023年第1四半期には4.1%まで急落した。だが同じ期間、街の実感が大きく好転したという声は多くない。数字を動かしたのは景気の回復ではなく、統計の「定義」だった。この記事では、その定義の中身と、なお若者たちが国を離れる「Japa」という選択を続ける理由を確認する。

この記事で手に入るもの

ILO標準への切り替えで失業率が急落した経緯、週1時間の労働でも「雇用」とみなす新しい定義、中央値年齢18.3歳という世界最年少級の人口構成、そして「Japa(逃げる)」と呼ばれる頭脳流出の規模までを確認する。

01 — 問い

2年で29.2ポイントの改善は、何によって生まれたのか

ナイジェリア国家統計局(NBS)が発表した失業率は、2020年第4四半期の33.3%から、2023年第1四半期にはわずか4.1%まで下落した。これほど急激な改善は、通常の経済成長では説明がつかない。実際にこの間、街角の実感としての雇用状況が劇的に好転したという報告は乏しい。

答えは、統計の「測り方」が変わったことにある。


02 — 定義が変わった

「週1時間働けば雇用されている」という新基準

NBSは2023年、国際労働機関(ILO)の標準的な定義に合わせる形で、失業率の算出方法を刷新した。新方式では、労働年齢人口の下限を15〜64歳から「15歳以上」に拡大し、調査期間中に1時間でも収入を伴う労働をした人を「就業者」として扱う。見習い(アプレンティス)も就業者に含まれるようになった。この変更により、以前の定義では失業者・不完全就業者に分類されていた多くの人々が、新しい統計上は「就業者」として数えられるようになった。

エコノミストや労働組合からは、この新定義が実態を過小評価しているという批判が相次いだ。「週1時間の労働」と「安定した生計」のあいだには、大きな距離がある。


03 — 世界最年少級の人口

中央値年齢18.3歳、2050年には人口4億人の大国へ

ナイジェリアの人口中央値は18.3歳——世界でも有数に若い。人口の63%が25歳未満で、毎年400万人が15歳になる。国連の推計では、現在約2億3,500万人の人口は2050年に約4億人へ達し、世界第3位の人口大国になる見通しだ。人口ボーナスの窓は2050〜2060年ごろまで開いているとされる一方、この巨大な若年人口を実際の雇用機会に変換できるかどうかは、依然として未知数だ。


04 — Japaという選択

大学・専門学校の卒業生170万人を、経済が吸収しきれない

毎年およそ170万人がナイジェリアの大学・専門学校を卒業するが、経済はこの人数を十分に吸収できていない。この状況から生まれたのが「Japa(ヨルバ語で『逃げる』)」という言葉——医師・エンジニア・教育者・IT専門職を中心とした頭脳流出を指す。国際移住機関(IOM)の推計では、2024年時点でナイジェリアの海外ディアスポラ(移民とその子孫を含む)は約1,700万人に達する。皮肉なことに、この人口移動は経済にも恩恵をもたらしている——海外からの送金は2024年、GDPの8%を超えた。94_philippinesで見たフィリピンのOFW経済と、構造的に似た姿がここにも表れている。

Afrobarometerの最新調査では、アフリカ全体でも自国の将来への楽観が上昇傾向にあり、ナイジェリアの前向きな回答も10%から30%へ伸びた。だが同時に、91%が「国は間違った方向に進んでいる」と回答し、72%が生活状況を「悪い」と評価している——楽観の兆しと、現在の厳しさが同居している。


05 — 出て行かずに築くという選択

ラゴスは、5年間で60億ドルを集めるアフリカのテック拠点になった

「Japa」だけが若者の選択肢ではない。ラゴスは2019〜2024年の5年間で60億ドル超の直接投資をテック系スタートアップに集め、ナイジェリア全体のテック投資流入の7割以上を占めるまでになった。2024年単年でもナイジェリアのスタートアップは4億ドル超を調達し、これはアフリカ大陸全体のスタートアップ資金調達の15%に相当する。ラゴスを拠点とする企業だけで、Flutterwave・OPay・Interswitch・Jumia・Moniepointの5社が評価額10億ドルを超える「ユニコーン」に成長した。ラゴスには約2,000のテックスタートアップが集積し、エコシステム全体の評価額は98億ドルに達するという推計もある。

同じ「経済が若者を吸収しきれない」という現実に対し、国を出るという選択と、新しい産業を築いて残るという選択が、同時に存在している。ラゴスは今、後者を体現する数少ない拠点の一つになっている。


06 — 結論

統計が改善しても、若者の選択は変わらなかった

89_chinaでは若年失業率の悪化によって統計そのものが一時的に姿を消したが、ナイジェリアでは逆に、定義の変更によって数字だけが劇的に改善した。どちらのケースでも、統計の背後にある若者の実際の選択——中国の「躺平」、ナイジェリアの「Japa」——は、公式統計の変化とは別のペースで動き続けている。政策の当否を論じることは本記事の範囲を超えるため、ここでは統計とその測定方法が示す構造の紹介に徹した。

数字が良くなったからといって、現実が良くなったとは限らない。その数字が何を「雇用」と定義しているかを確認するまでは。


07 — 出典

参考文献

本記事の要約・引用元。政府統計・国際機関データ・世論調査を組み合わせている。

01
ナイジェリア国家統計局(NBS)(2023年発表)失業率の推移(2020年Q4 33.3%→2023年Q1 4.1%)、ILO標準への算出方法変更(労働年齢人口の定義拡大、週1時間労働・見習いを就業者に算入)という統計の出典。
02
国連人口部の推計(2024〜2026年)人口中央値18.3歳、25歳未満63%、2050年人口約4億人(世界第3位)という予測の出典。
03
国際移住機関(IOM)(2024年)ナイジェリア海外ディアスポラ約1,700万人という推計の出典。
04
各種報道機関の集計(2025年)年間大学・専門学校卒業生約170万人、送金がGDPの8%超という統計の出典。
05
Afrobarometer(2025年発表)アフリカ全体・ナイジェリアの将来への楽観の変化、「国は間違った方向」91%・生活状況「悪い」72%という調査結果の出典。
06
各種業界レポート・報道機関の集計(Dealroom, Startup Genome等、2024〜2025年)ラゴスのテックスタートアップ投資額(2019〜2024年で60億ドル超・ナイジェリア全体の7割超)、2024年のスタートアップ資金調達額(4億ドル超、アフリカ全体の15%)、ユニコーン企業5社(Flutterwave・OPay・Interswitch・Jumia・Moniepoint)、スタートアップ数約2,000・エコシステム評価額98億ドルという統計の出典。
SURPLUS BOOKS VOL.1

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