← SURPLUS / 記事一覧へ KAZAKHSTAN'S OIL DIVIDEND FOR THE YOUNG ・ 見えない豊かさの経済学

2006年以降に生まれた子ども690万人に、国は石油収入の分け前を配り始めた。

カザフスタンは2024年、石油収入を積み立てた国富ファンド(National Fund)の運用益の半分を、2006年以降生まれの子ども全員に配分する制度を始めた。18歳になるまで引き出せず、住宅取得か教育費にしか使えない。これまでの連載で見た「若い世代が負担を背負う」構造とは逆方向の、資源国ならではの制度だ。だが同じ国の若者たちは、別の壁にも直面している。

この記事で手に入るもの

「子どものための国民基金」制度の仕組み、2024年の実際の配分額、そして高学歴でも6割以上が都市部に住みながら求職活動をしていないという、カザフスタンのNEET青年層の実態までを確認する。

01 — 問い

資源国は、若い世代に何を配れるのか

カザフスタンは世界有数の産油国で、原油埋蔵量は世界12位の約300億バレル、石油・ガス収入は政府歳入の40〜50%、輸出額の60〜70%を占める。この石油収入は2000年に設立された国富ファンド「National Fund」に積み立てられてきた。2024年、この基金の使い道に新しい章が加わった。


02 — 子どものための国民基金

690万人の子どもに、運用益の半分を配分する制度

2024年1月に始まった「子どものための国民基金(National Fund for Children)」制度は、National Fundの投資運用益の50%を、2006年以降に生まれたカザフスタン国籍の子ども全員の個人口座へ、毎年積み立てる仕組みだ。2024年には690万人近い子どもがこの制度に参加し、総額約6億9,550万ドル、1人あたり129.38ドルが積み立てられた。資金は子どもが18歳になるまで引き出せず、その後は住宅取得か教育費にのみ使うことができる。市場環境次第だが、1人あたりの最終的な積立額は3,000〜4,000ドル程度になると見込まれている。

生まれた瞬間から、国の資源収入の一部が個人の口座に積み上がっていく。これは、多くの国で見てきた「若い世代が既存の制度の負担を引き受ける」構造とは、正反対の仕組みだ。


03 — もう一つの壁

高学歴でも、6割以上が都市部で「求職すらしていない」

だが同じカザフスタンの若者は、資源収入の恩恵とは別の壁にも直面している。就労・就学・職業訓練のいずれにも従事していない若者(NEET)の割合は6.5〜7.3%。特徴的なのは、その内訳だ。NEET青年の58%は求職活動すら行っておらず、62.1%は都市部に居住し、多くが高等教育を修了している——貧困地域の教育機会不足という単純な構図ではない。背景には、大学・専門教育を終えても、実際の求人と本人のスキル・希望が噛み合わない「初職の罠」があると指摘されている。若年層(15〜34歳)全体の失業率は3.1%と低水準だが、女性(4.3%)は男性(2.9%)より高い。


04 — もう一つの人的投資

留学奨学金の帰国率は98.1%——選ばれた若者は高い確率で戻ってくる

石油収入を若い世代に振り向ける制度は、「子どものための国民基金」だけではない。1993年に始まった国費留学制度「ボラシャク奨学金」は、30年間で12,731人をカザフスタン国外の大学院・大学へ送り出してきた。この制度の際立った特徴は、帰国率の高さだ——奨学金には修了後の帰国・就労義務が課されており、この義務を果たさず資格を失効した卒業生はわずか235人、全体の1.9%にとどまる。帰国した卒業生の就職先は、民間企業42.8%・政府機関31%・準国有セクター16.2%と幅広く、2013年時点で確認された5,714人の卒業生のうち、無職だったのはわずか87人だった。

「子どものための国民基金」が全ての子どもに薄く広く配る制度だとすれば、ボラシャク奨学金は選ばれた少数に厚く投資する制度だ。ただしその対象は、NEET青年が抱える「初職の罠」とは別の層——すでに高い競争を勝ち抜いた層に集中している。


05 — 結論

資源の富はセーフティネットになるが、雇用のミスマッチは別問題として残る

カザフスタンの物語は、この連載で初めて見る「若い世代への直接的な富の分配」という制度だ。88_korea89_china100_germanyで見た「既存制度の負担を若い世代が引き受ける」構造とは対照的に、カザフスタンは資源収入という別の原資を、次世代へ直接振り向けている。だがこの制度は、教育と労働市場のミスマッチという、資金だけでは解決しない別の課題までは埋めていない。政策の当否を論じることは本記事の範囲を超えるため、ここでは制度と統計が示す構造の紹介に徹した。

お金を配ることと、働く場所を用意することは、別の問題だ。カザフスタンは前者では新しい実験を始めたが、後者の課題はまだ解決されていない。


06 — 出典

参考文献

本記事の要約・引用元。政府統計・国立銀行の公式発表・学術論文を組み合わせている。

01
カザフスタン国立銀行(2024年発表)「子どものための国民基金」制度の仕組み(2006年以降生まれの子ども全員が対象、National Fund運用益の50%を毎年配分、18歳まで引き出し不可、住宅・教育用途限定)の出典。
02
各種報道機関の集計(2024年)2024年の参加者数約690万人、配分総額約6億9,550万ドル、1人あたり129.38ドル、想定最終積立額3,000〜4,000ドルという統計の出典。
03
カザフスタン統計局(2024年)若年(15〜34歳)失業率3.1%(女性4.3%・男性2.9%)という統計の出典。
04
NEET青年に関する学術論文・報道の集計(2023〜2024年)NEET比率6.5〜7.3%、58%が求職活動をしていない、62.1%が都市部居住・高学歴という統計、「初職の罠」という概念の出典。
05
各種報道機関・カザフスタン政府の集計(2024年)ボラシャク奨学金制度(1993年開始、30年間で卒業生12,731人、帰国義務不履行による資格失効235人=1.9%)、卒業生の就職先内訳(民間42.8%・政府機関31%・準国有16.2%)、2013年時点の無職率(5,714人中87人)という統計の出典。
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