マカオの1人あたりGDPは世界トップクラス。カジノ産業が生み出す富は、都市全体の平均を大きく押し上げている。だがその平均の陰で、16〜24歳の失業率は全体の失業率の4倍以上に達する。豊かさの平均値と、若い世代が実際に置かれた雇用環境のあいだには、大きな溝がある。
カジノ産業がGDPの4割前後・政府歳入の8割を占めるという一極依存構造、コロナ禍で世界ランキングが7位から33位へ転落した経験、そして若年失業率が全体の失業率の4倍以上という雇用の実態を確認する。
2025年、マカオの1人あたりGDPは名目で約7万6千ドル、購買力平価では約13万4千ドルに達し、世界で3〜8位圏という、世界トップクラスの水準にある。かつては2019年時点で、この数字がスイスやシンガポールといった高所得国を上回ったこともあった。
だがこの数字は、都市全体の平均値だ。2024年第3四半期、マカオ全体の失業率は1.7%という低水準だったのに対し、16〜24歳の失業率は7.3%——全体の4倍以上に達した。パンデミック期のピーク時には10%を超えていたことを踏まえれば改善しているとはいえ、平均値の高さと若年層の雇用の安定は、必ずしも一致しない。
マカオの富の源泉は、カジノ産業への極端な集中にある。ピーク時の2013年、カジノの総収入はラスベガス・ストリップの約8倍に達し、マカオのGDPの88%を占めた。近年は多角化が進み、2024年時点でゲーミング収入がGDPに占める割合は4割を下回るまで低下したが、それでも就業者全体の35%以上が、依然としてゲーミング・ホテル産業に従事している。
1つの産業に雇用の3分の1以上が集中するとき、その産業が揺らげば、若い世代の雇用機会も同時に揺らぐ。
この一極依存構造の脆さは、新型コロナウイルスの流行下で露呈した。渡航制限によってカジノへの来訪者が急減すると、マカオの1人あたりGDPは急落し、世界ランキングは2019年の7位から2020年には33位まで転落した。政府は現在、非ゲーミング産業の割合をGDPの6割まで引き上げるという目標を掲げているが、パンデミック前の2019年時点でも非ゲーミング産業の割合は5割にとどまっていた。
若年層の就職難の背景には、就業経験の不足・スキルのミスマッチ・期待する給与水準との乖離に加え、就職活動の多くが個人的なつながりに依存しているという構造的な要因も指摘されている。
マカオ新華青年協会(MNCYA)が2022年10月に実施した調査(18〜34歳の就業経験者665人が対象)では、72%が「2019年と比べて、階層上昇がより困難になった」と回答し、19%は「大幅に」難しくなったと答えた。「階層上昇の機会が不足している」と感じる割合は、2019年の23.0%・2021年の32.7%から2022年には48%まで、3年連続で上昇した。要因としては新型コロナウイルスの影響に加え、人脈の不足、産業構造の多様性不足が挙げられている。
それでも42%超が今後5年間の見通しに楽観的で、56%は「専門スキルの向上」を階層上昇のための最優先の手段だと答えている。カジノ・ホテル産業への一極集中という構造的な制約の中でも、若者たちは個人の努力で道を切り開こうとする姿勢を保っている。
マカオの物語が示すのは、1人あたりGDPという集計統計が、必ずしも若い世代が直面する現実を映さないという点だ。95_hongkongが住宅価格という重りを抱えていたのに対し、マカオは特定産業への依存という別種の脆さを抱えている。政策の当否を論じることは本記事の範囲を超えるため、ここでは統計が示す構造の紹介に徹した。
平均値の高さは、若い世代が置かれた現実の質を保証しない。1つの産業に賭けた繁栄は、同じ産業が揺らいだときの反動も、若い世代に集中して跳ね返す。
本記事の要約・引用元。政府統計・国際比較データを組み合わせている。
連載の主要記事を1冊に再構成し、書き下ろしを加えたKindle本です。数字では測りにくい豊かさを、所得・時間・関係・自由の視点から読み直します。
Amazonのアソシエイトとして、meclGGは適格販売により収入を得ています。