← SURPLUS / 記事一覧へ SURVIVORSHIP BIAS ・ 見えない豊かさの経済学

同じように集めていた人の大半は、何も手にしていない

前回の記事では、昔30円で買ったシールが25万円になった話を見た。だがその裏には、同じように熱狂的に集められ、数十年後には紙くず同然になったコレクションの方が、実は数として多いという事実がある。

この記事で手に入るもの

1990年代最大のコレクターブーム「ビーニーベイビーズ」がどこまで暴落したかという実数、ポケモンカード市場自体も2022年以降に調整局面へ入ったという事実、そして「勝った話」だけが記憶される生存者バイアスの構造までを確認する。

01 — 問い

勝ち組の話ばかりが聞こえてくる理由

「昔集めていたカードが高値になった」という話は繰り返し語られる。だが「昔集めていたカードが、今もただの紙切れのままだ」という話は、語られることすらない。当然のことだが、値上がりしなかったコレクションの持ち主には、語るべき驚きの結末がないからだ。この非対称な語られ方こそが、この記事のテーマである。


02 — 最大級の反例

1990年代最大のブームは、ピーク比2%まで暴落した

その代表例が、1990年代末に米国で社会現象化した「ビーニーベイビーズ」だ。動物のぬいぐるみ1体が、生産終了と同時に転売市場で数百〜数千ドルにまで跳ね上がり、多くの家庭が「将来の学費や老後資金になる」と信じて買い集めた。ある収集家は約2万体、日本円で1,000万円相当を購入したと報じられている。

だがバブルは1999年に崩壊した。「限定生産」による希少性の多くが、意図的に演出されたものにすぎなかったと分かった瞬間、市場は総崩れになる。ピーク時の価値を100とすると、崩壊後のコレクションはおよそ2まで下落——生き残った個体でも、1体あたり50セント程度の値がつくのがやっとという状態になった。

「将来値上がりする」という期待だけで買われたコレクションは、期待が崩れた瞬間に価値そのものを失う。


03 — 現在進行形の調整

ポケモンカード市場も、例外ではなかった

前回取り上げたポケモンカードの高騰も、無条件に続いてきたわけではない。世界的なポケモンTCGの市場規模は、パンデミック下の2019年の$600Mから2021年には$1.8Bへと3倍に急拡大したが、2022年以降は各国の利上げにより「代替資産」全般から資金が流出し、調整局面に入っている。前回紹介したリザードンやピカチュウ イラストレーターのような突出した記録は、あくまで市場全体の中でも例外的な最上位カードの話だ。同じ時期に発行された大多数のカードは、当時の店頭価格を大きく下回る水準で取引されている。


04 — 明暗を分けたもの

同じ熱狂から、なぜ天と地に分かれたのか

ビーニーベイビーズとポケモンカードの最上位カードは、どちらも「一時的な熱狂」から始まった点で共通している。分かれ道になったのは、その希少性が本物だったかどうかだ。

01

資産として生き残った側

1999年印刷の初版カードや、1909年に配布されたきり増刷されていないカードのように、供給量そのものが物理的・歴史的に固定されている。需要が高まっても、後から数が増えることはない。

02

紙くず同然になった側

「生産終了」という発表そのものが需要をあおるための演出であり、実際にはいくらでも似た商品が供給され続けた。希少性への期待が剥がれた瞬間、価格を支えるものが何もなくなる。


05 — 結論

「勝った話」は、母数のごく一部でしかない

昔30円だったシールが25万円になった、というのは事実だ。だが同じ棚に並んでいた他の何百枚ものシールの大半は、今も30円かそれ以下の価値しか持たない。私たちが記憶し、語り継ぐのは、母数の中でもごく一部の「生き残った」例だけだ——これが生存者バイアスと呼ばれる構造である。前回の記事で見た成功例と、この記事で見た失敗例は、同じコインの表と裏として、セットで見る必要がある。

「気づいたら手にしていた幸福」の話をするなら、「気づいたら手にしていた紙くず」の方が、実は多数派だったという話も、同じ重みで扱う必要がある。


06 — 出典

参考文献

本記事の要約・引用元。コレクターブームの崩壊事例・業界市場調査の報道を組み合わせている。

01
The Hustle (2019)The Great Beanie Baby Bubble of '99. ビーニーベイビーズのブームと崩壊の経緯、コレクション価値がピーク比約2%まで下落したという数値の出典。
02
History.com、Fortune等の報道ある収集家が約2万体(約100万ドル相当)を購入した事例、崩壊後の1体あたりの実勢価格(約50セント)の出典。
03
各種業界報道 (2021-2022年)ポケモンTCGの世界市場規模(2019年$600M→2021年$1.8B)、2022年以降の金利上昇に伴う代替資産全般からの資金流出の出典。
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