投資のつもりなど、誰にもなかった。子どもの頃、駄菓子屋やパックで何気なく手にしたシールやカードが、数十年後に信じられない値段で取引されている。ポケモンカード、野球カード、コミック本、ビックリマンシール——「気づいたら手にしていた幸福」の実例と、それを裏付ける学術研究を追う。
30円のシールが25万円になった実例から、中古のおもちゃ市場を年率11%のリターンで分析した学術研究、そして「思い出の品は3倍高く評価される」というノスタルジア・プレミアムの実験結果までを確認する。
株や不動産と違い、これらはそもそも「増やすため」に買われたものではない。子どもの小遣いで、パックの中身も分からないまま手にしたカード。おまけとしてチョコに付いてきたシール。当時それを大事に取っておいた人の多くは、将来値上がりすることなど考えてもいなかったはずだ。それが数十年後、信じられない値段で取引されている——この記事では、その実例と、値上がりを裏付ける研究を確認する。
代表的な4つの事例を見てみる。
共通しているのは、どれも「集めること」自体が目的で、値上がりが目的ではなかったという点だ。結果として資産になったのであって、資産になるものを狙って買ったわけではない。
これは逸話だけの話ではない。ロシア高等経済学院のDobrynskaya & Kishilova(2019/2021, Research in International Business and Finance)は、1987年から2015年までのレゴセット2,322点の中古市場価格を分析した。結果、レゴは年率11%(名目、実質8%)のリターンを生んでおり、これは同じ期間の株式・債券・金を上回る水準だった。市場との相関もほぼゼロで、分散投資先としての性質まで確認されている。
スニーカーの転売市場も、研究者から「非流動性プレミアムを持ち、伝統的資産と無相関な新興資産クラス」と位置づけられている。取引プラットフォームStockXが独自に組んだ500足のスニーカー指数は、S&P500を数ポイント上回るパフォーマンスを示したという分析もある。一方で、ワイン・アート・クラシックカー・時計などを束ねたKnight Frankラグジュアリー投資指数は、過去10年で+38.6%(年率換算で約3.3%)にとどまっており、同じ「コレクター品」でもカテゴリによってリターンには大きな差がある。
値上がりの一因として研究が指摘するのが、ノスタルジア・プレミアムだ。2022年のJournal of Consumer Psychologyの実験では、被験者は「自分の子ども時代を思い出させるおもちゃ」を、思い出の結びつかない同一の品物より最大3倍高く評価した。さらにAquino & Gershenson(2024)は、この「ノスタルジア効果」を野球カードの実際の取引価格データで検証し、統計的に確認している。
集める段階では気づかれないまま、何十年もかけて「思い出」そのものに値段がつく——これが、投資のつもりのなかった人が結果的に資産を手にすることになる、一つのメカニズムだ。
値上がりを狙って集めていたら、うまくいかなかったかもしれない。ただ好きで集めていたことが、結果的に功を奏した側面もある。
ここまでは、うまくいった実例だけを集めてきた。だが「集めていたものが、後で価値を持つ」という話には、同じくらい大きな裏側がある——同じように熱狂的に集められ、後に紙くず同然になったコレクションの方が、実は数として多い。その話は、次の記事で扱う。
「気づいたら手にしていた幸福」の話をするなら、「気づいたら手にしていた紙くず」の話もセットで見る必要がある。
本記事の要約・引用元。オークション記録・業界市場調査・学術研究を組み合わせている。
連載の主要記事を1冊に再構成し、書き下ろしを加えたKindle本です。数字では測りにくい豊かさを、所得・時間・関係・自由の視点から読み直します。
Amazonのアソシエイトとして、meclGGは適格販売により収入を得ています。