「一人暮らしか、同居か、施設か」——高齢期の住まいの選択は、幸福度を左右する最重要事項だと考えられがちだ。だが2つの大規模調査が示したのは、住居形態そのものより、もっと地味で、もっと変えやすい変数だった。
ルヴァスールら(2025)によるケベック州979人の調査が示した「一般住宅でも高齢者向け住宅でも幸福度はほぼ同じ、効いていたのは生き生きした感覚(thriving)・社会参加・エイジズムの少なさ」という発見、そしてファン&シム(2021)の韓国14,687人調査が示した「独居・配偶者同居・家族同居で、幸福と結びつく接触の相手が変わる」という構造——住まいの「箱」より、接触の「中身」を見る視点を追いかける。
高齢期の住まいをめぐる議論では、「一人暮らしは寂しく不幸」「家族との同居は幸せ」「施設入居は本人の意志に反する選択」といった、住居形態そのものへの評価が語られがちだ。子ども世代が親の住まいを心配するときも、まず問われるのは「どこに住むか」という選択肢そのものであることが多い。
ルヴァスール、ノー、ラガセ、レイモンド、ジェネロー、ロード&ベダール(2025)は、カナダ・ケベック州の75歳以上979人(一般住宅509人、高齢者向け自立型住宅470人、平均年齢82.22歳)を対象に、幸福度とその関連要因を調査した。結果、幸福度の水準は、住居形態にも性別にもほとんど差がなかった。
だが、何が幸福度と関連していたかを見ると、住居形態を超えた共通の構造が見えてくる。性別・住居形態を問わず一貫して幸福度と強く結びついていたのは、「生き生きと生きている感覚(thriving)」だった。加えて、地域社会とのつながり(community integration)は一般住宅・高齢者向け住宅の双方で、社会参加は一般住宅に住む女性で、そしてエイジズム(加齢に基づく差別・偏見。他者からの差別だけでなく、自分自身の加齢に対する否定的な思い込みも含む)の少なさが、性別と住居形態によって異なる形で幸福度と関連していた。
ここが最初の手がかり。「どこに住むか」よりも「どれだけ生き生きしていられるか」「地域とどうつながっているか」「エイジズムにどれだけさらされているか」の方が、幸福度との結びつきが強かった。
韓国のファン&シム(2021)は、2017年の地域社会健康調査(Korean Community Health Survey)のデータを使い、65歳以上14,687人を対象に、居住形態別の幸福度スコア(0〜10点)を比較した。結果、独居高齢者は平均6.22点、配偶者と同居する高齢者は6.76点、子や家族と同居する高齢者は6.46点と、居住形態によって幸福度の水準そのものに差があった。
だが、この研究がより重要な形で示したのは、点数の差そのものよりも、それぞれの居住形態において、どの相手との接触が幸福度と結びついているかが異なるという構造だった。
家族との接触、そして近隣住民との接触の頻度が、幸福度と有意に関連していた。
近隣住民や友人との接触の頻度が、幸福度と有意に関連していた。
(すでに毎日顔を合わせているはずの)家族との接触の頻度が、それでも幸福度と有意に関連していた。
ここが核心。誰と住んでいるかは、幸福度と結びつく「接触の相手」を決めるだけであって、幸福そのものを保証してはいない。独居であっても家族・近隣との接触があれば幸福度は高まりうるし、家族と同居していても、その接触の頻度と質が伴わなければ幸福度は上がらない。
老人ホームへの入居と適応を扱った記事で見た通り、施設内での自己決定度という「設計変数」が生活満足度を左右していた。今回の2つの調査が示すのも、同じ構造の延長線上にある。「どこに住むか」という一度きりの選択よりも、「誰と、どれだけの頻度で、どんな中身の接触を持つか」という、日々の設計変数の方が、住居形態という外形よりもよほど強い説明力を持っていた。
回想療法を扱った記事で見た「対話に付き合う時間」というほぼ無料の資源も、この文脈に接続する。住まいをどう選ぶかという大きな決断に頭を悩ませる前に、今ある住まいの中で接触の頻度と質をどう設計し直せるかという、より小さく、より扱いやすい変数に目を向ける余地がある——それは、統計にはほとんど計上されない、しかし測定すれば確かに効いている豊かさだ。
ルヴァスールらの研究はケベック州、ファン&シムの研究は韓国という、それぞれ特定の社会保障制度・住宅事情・文化的背景を持つ地域のデータであり、日本を含む他の社会にそのまま当てはめられるとは限らない。また、いずれの研究も横断的な相関関係を示すものであり、接触頻度を増やせば必ず幸福度が上がるという因果関係を証明したものではない——もともと社会的な結びつきを保ちやすい性格や健康状態の人が、接触頻度も幸福度も高いという逆の因果の可能性も排除できない。
また、老人ホームへの入居直後の急落を扱った記事で見た通り、住居形態の「変更」そのものに伴う心理的な移行コストは、今回の横断的な比較データの scope 外にある。「今どこに住んでいるか」と「住まいを変える経験そのもの」は、別の問いとして扱う必要がある。
※本記事は高齢者の住まい・社会的つながりに関する学術研究の紹介であり、特定の住居選択・介護方針を推奨するものではありません。
本記事の要約・引用元。数値は各文献の概算値に基づく。
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