「AIのおかげでずいぶん楽になった」という体感は、実際にはどれくらい実測とズレているのか。ZOZOのエンジニアチームがGitHub Projectsで1年間計測した数字をもとに、体感を過信しない工数削減の測り方を考える。
体感を数字に変換する計測の仕組み(GitHub Projectsのカスタムフィールド設計)と、「効果が出やすいタスク」と「出にくいタスク」を見分ける判断軸、そして自分の運用にこの計測フレームをどう当てはめるかの具体案。
ZOZO TECH BLOGの「AIによる工数削減を計測して見えた結果と考察」は、エンジニア3人のチームが1年かけて「AIでどれだけ楽になったか」を実測した記録だ。方法はシンプルで、タスク管理に使っているGitHub Projectsにカスタムフィールド「AI削減工数」を追加し、タスクごとにAIがどれだけ時間を浮かせたかを記録する。データは日次でBigQueryに自動エクスポートされ、ダッシュボードで可視化される。
計測期間はFY2025H1(2025年4〜9月)とFY2025H2(2025年10月〜2026年3月)の1年間。対象はGitHub Issueで管理された全529件のタスクで、「なんとなく速くなった」を主観のまま終わらせず、1件ずつ記録に残したのがこの記事の価値だ。
計測してわかったのは、数字そのものより「体感がどれだけズレていたか」だった。
メンバーの実感として「分析やコーディング業務では既に俺が3人分になるケース」があったという。実装をAIが瞬時に終わらせる体験は脳に強く残りやすく、そこだけを見ると全体が劇的に速くなったように感じてしまう。
実際に計測した削減工数は、H1で212.6時間、H2で439.9時間(約2.1倍に増加)。最も削減が大きかった2026年3月でも96.8時間、人月換算で約0.58人月だった。「3人分」の体感とは1桁近く水準が違う。
ここが核心。実装が一瞬で終わる体験は強く記憶に残るが、その後のレビュー待ちや調整の時間は変わらない。ボトルネックが「書く」から「人間が確認する」へ移っただけなのに、体感は「書く」の速さで全体を評価してしまう。
1営業日あたりの削減時間を作業内容別に見ると、差は歴然としている。
次いで分析・レポーティング作成が0.49時間、社内活動が0.42時間。いずれも「何を作るか」が明確で、ゼロから文章や資料を組み立てる時間が長いタスクだ。
設計は0.19時間。意思決定や対人調整が中心のタスクでは、AIに肩代わりできる時間そのものが少ない。
記事はこの差を「成果物が明確で作業に時間のかかるタスクほどAIの効果は出やすく、意思決定や対人調整を中心とするタスクほど効果は出にくい」と分析している。半年でAI活用率は45.0%から71.5%へ、活用1件あたりの平均削減時間も1.76時間から2.37時間へ伸びており、「使う場面が増えた」ことと「1件あたりの深さが増した」ことの両方が効いている。
正直に言うと、このポートフォリオ運用でもAIによる工数削減は「なんとなく楽になった」という体感でしか語れていない。journal.mdやtimeline/events.jsonlには作業の記録はあっても、「AIがどれだけ時間を浮かせたか」を示す列は存在しない。ZOZOの計測設計から持ち帰れるのは、大掛かりな仕組みではなく「記録する列を1つ増やす」という最小の一歩だ。