「細かく指示するほどAIは正確に動く」は、直感としては正しそうに見える。だがClaude CodeチームのCat WuとThariq Shihiparが明かした運用の工夫は逆だった——判断そのものをAIに委ねる方が結果が良い、という報告だ。
「テストを書くか省略するか」の指示例を軸に、細かいルールを書き下すか/判断を丸ごと任せるかを切り替える基準と、CLAUDE.mdの指示文を書き換えるときの考え方。
Claude Codeチームのアドバイスとして紹介されていたのは、テスト方針の指示文だった。従来は「大きな機能には自動テストを書く。小さなコピー修正やデザイン変更ではテストを省略していい」というように、どこまで書けばテストを省略していいかを条件で細かく指定していたという。
一見、これは丁寧な指示に見える。判断の基準を明文化しているぶん、AIが迷わず動けそうに思える。だが実際には、この「条件を書き下す」やり方自体が精度を頭打ちにしていた。
条件を増やすのをやめ、判断の権限そのものを渡す。
「小さい変更はスキップしていい」という個別条件を書く代わりに、テストを書くべきかどうかの判断そのものをAIに委ねるよう指示を変えた。人間の開発者に対しても、細かい手順書より「状況を見て判断してほしい」と伝えた方がうまくいく場面があるのと同じ発想だ。
この記事を紹介したSimon Willisonは、自身の指示文にこう書いていると明かしている。For all coding tasks use your judgement to decide an appropriate lower power model and run that in a subagent——「どのタスクをどの下位モデルに任せるか」まで条件で列挙せず、判断そのものをAIに渡すという同じパターンだ。
この裁量委任型の指示に切り替えたことで、実装作業は下位モデルへ、判断や検証は上位モデルへと自然に振り分けられ、トークン消費が大きく削減されたと報告されている。条件を書き下すより、境界線の判断ごとAIに渡した方が、結果的に無駄のない振り分けになった。
ここが核心。指示を細かくするほど精度が上がる、という直感は場面によっては裏目に出る。条件を人間が列挙しきれない領域では、条件でなく「判断の権限」を渡す方が、結果的にAIの出す答えの質が上がる。
この発想をそのまま流用できるのは、CLAUDE.mdや指示ファイルの中で「〜のときは〜する、〜のときは〜しない」という条件分岐がどんどん増えてしまっている箇所だ。条件が2〜3個のうちは列挙で十分だが、条件を書き足すたびに例外が増えていくなら、それは判断そのものを渡すべきサインかもしれない。
ビフォーアフターの型はこう整理できる。
# ビフォー:条件を列挙する
「大きな機能にはテストを書く。小さなコピー修正・デザイン変更はテストを省略していい。
バグ修正の場合は再現テストのみ書く。……」
# アフター:判断の権限を渡す
「テストを書くべきかどうかは、あなたの判断で決めていい」
条件を減らすことは、指示を放棄することではない。「何を目的に判断すべきか」というゴールだけを渡し、条件の場合分けそのものはAI側の裁量に任せる、という役割分担の変更だ。
ここで注意したいのは、裁量を渡すことと、何も指示しないことは別だという点だ。「テストの要否はあなたの判断で決めていい」という一文が機能するのは、その前提として「何を大事にする開発なのか」という文脈がすでに共有されているときに限られる。文脈が何もない状態でいきなり「判断は任せる」とだけ書いても、基準がぶれた出力になりやすい。
実務上は、細かい条件を削る代わりに、判断の拠り所になる価値観(例:「本番影響が大きい変更ほど慎重に」)を1〜2行だけ残しておくと、裁量委任がぶれにくくなる。
CLAUDE.mdやスキルの指示文が条件分岐だらけになってきたら、見直すタイミングだ。